Solutions to Improve Financial Literacy and Roles of Financial Advisors in Japan <ABSTRACT> 論文概要(日本語) |
2016年に行われた金融リテラシー調査(金融中央広報中央委員会)はじめ、各種政府統計結果では、日本人の金融リテラシーは他国より低い傾向にあることが指摘されている。金融リテラシーとはお金に関する知識や判断力を指し、金融庁は最低限身に付けるべき金融リテラシーの目安として金融リテラシーマップを策定し、教育現場などでの利用を促している。本論文は、その金融リテラシー調査をより詳細に分析することで、国民の金融リテラシーをどのように改善すべきか検討することが目的である。特に、銀行や保険会社などで働くファイナンシャルアドバイザーがその改善のために担うべく役割についても明確にしたい。そこで、223人のファイナンシャルアドバイザーに質問票調査を実施し、金融現場、つまり、顧客とファイナンシャルアドバイザーの関係における問題点を指摘し、今後の課題について提言した。 現在、少子高齢化やそれに伴う社会保障費の増大などは日本社会が抱える大きな問題と捉えられており、様々な対策が施されているが、背景には金融リテラシーの低さが影響しているとも考えることができる。金融知識の無さから資産運用に保守的で、勧められるがまま生命保険へ加入し、老後に対し強い不安を抱えているという日本人の平均像についてもこの論文で確認している。老後のみならず将来への不安から、結婚や出産に否定的な若者も多く、それが少子高齢化につながるという悪循環にもつながっている可能性がある。また、子供の相対的貧困率の高まりや生活保護受給者の増大、そして振り込め詐欺問題が後を絶たないことも、お金に対する知識や判断力が1つの要因になっていると考えられる。 この論文は5章からなり、第1章では先行研究の紹介やリサーチクエスチョンについて言及している。第2章では、金融リテラシー調査の概要についてまとめている。特に欧米主要国との比較を通して、日本人の金融リテラシーの低さを確認する。次の第3章では金融リテラシー調査を性別や世代別など属性別に分析した。特に若い世代の金融リテラシーが低く、30代においてはインフレーションや金利の仕組みについて理解度が低いことが分かった。結婚、出産、住宅購入といった大きなライフイベントを前に、学資保険や住宅ローンといった意思決定を行う上で必要な知識が乏しいことは大きな弊害である。また、都道府県別の比較で生命保険の加入における問題点について指摘している。多くの日本人が生命保険については理解していないと回答しているにも関わらず、過大な死亡保障額を得ていることからも、生命保険に対する考え方から契約に至るまで、日本人の金融リテラシーの低さが影響していることが推察される。都道府県ごとの平均保険契約数と死亡保障額と金融リテラシーの関係を検証すると、金融リテラシーの判断力に該当する、「契約時に他の提案と比較した」と答えた割合の高い県と低い割合の都道府県を5県ずつピックアップし、それぞれの県の平均保険契約数と平均死亡保障額データを分析すると、契約時に比較した割合が高い都道府県が全体平均に比べ保険契約数や死亡保障額が低く、他の提案と比較した割合が低い都道府県は平均よりも高い結果となった。都道府県の経済力の影響を排除するため、都道府県別一人当たりGDPに対する死亡保障額の割合で検証しても同様の結果となった。よって、契約時に他の選択肢を選ぶことが適正な保険契約の重要な要素となる。
男女別では投資回避傾向について調査を行った。金融リテラシー調査結果レポートでは女性の方が男性より投資回避傾向にあると指摘しているが、その調査項目にあたる質問と全く同じ質問をファイナンシャルアドバイザーに行うと、男女差はほとんどなく、わずかに男性の方が、投資回避傾向が強い結果となった。そこで男女別の金融リテラシー調査結果をさらに追求すると、女性は男性より、計算が絡む問題の正答率が低く、読解力が求められる問題の正解率が高いことが分かった。これは世界各国の学力調査を行っているPISAの結果と一致する。よって、夫婦の場合は、夫と妻、それぞれが協力して家計管理を行うことの効用についてさらに追及した。特に日本は夫の家計管理への参加率が非常に低く、他国では家計を共同管理する割合が高いことが先行研究で分かっている。共同管理率が高さとお金に関する注意力が高い相関関係にあることが、今回の研究で確認することができた。よって、夫婦での家計管理を促すことは、お金への注意力の高まり、ひいては金融リテラシー全般の向上に寄与できるのではないか。このような結果を踏まえ、第4章ではファイナンシャルアドバイザーが顧客層の金融リテラシーをどのように捉えているか紹介している。概ね、日本人の金融リテラシーの程度や特徴を理解しており、今後の活動の仕方次第では十分に金融リテラシーの向上に寄与できることを提言している。マーケティングのフレームワークである、サティスファクション・ミラーを投資信託の販売シーンに当てはめ問題点や改善点を指摘しているほか、金融リテラシーマップを活用し最適な金融アドバイスを行うための、「金融リテラシーマップのためのファイナンシャルアドバイザーマップ」の作成の必要性を提言し、一部の内容に絞ってマップも作成した。最終章の5章では仮想通貨やフィンテックなど一段と家計を取り巻く環境が複雑化する中で、金融リテラシーを高める必要性とファイナンシャルアドバイザーが担うべき役割を再考し、今後の課題についてまとめている。 金融リテラシーに関する先行研究は学校教育や子供の頃の金銭教育の在り方について提唱しているものが多く、ファイナンシャルアドバイザーが担うべく役割について示唆しているものは少ない。今回の研究が、ファイナンシャルアドバイザーの適切かつ高いレベルで顧客層と接する行動規範となり、日本人の金融リテラシーが改善し、長期的に様々な社会問題解決の糸口になることを期待するものである。 |